第41回

41. <キャビテーション>

今回はキャビテーションについてです。 これまでにも何回か出てきているキャビテーションですがまとめてみたいと思います。

キャビテーションはオイルの部屋を膨張させて圧力を下げて減衰力を発生させるタイプのダンパーで起こります。 オイルは圧縮する分にはどんどん圧力が上がりますが膨張させてもどんどんマイナス圧力になっていくなんて話はないのです。

始めにゲージ圧と絶対圧から、ゲージ圧は大気圧をベースにしてそれをゼロとして圧力を表します、だから今いる部屋の圧力はゼロパスカルです。対して絶対圧は真空圧をゼロとして圧力を表します、今いる部屋の圧力は100kPa(≑1気圧)です。通常ゲージ圧を使用するのでここでもゲージ圧を使います、ですから真空は-100kPaとなります。

図に油部屋を膨張させて減衰力を出す代表格のモノチューブダンパーを持ってきました。各部屋をA, Bとします。ガス室の大きさは十分大きくて圧力変化がないとします。 注意してもらいたいのはA室は仕切りを隔ててガス室と接していて、仕切りはガスと油を分けているだけでガス圧力と部屋Aの圧力はいつも同じだということです、つまりA室の圧力はいつもガス圧でなおかつ圧力の変化が(ほぼ)ない、減衰力には関与しないということです。

減衰力を作り出すのはB室のオイルの圧力変化だけです。 リバウンドの時に圧力が上がり、バンプの時に圧力が下がり、その上がったり下がったりの圧力とガス圧との差が減衰力になるのです。 問題はバンプですよね、ダンパーが速く動いて減衰力が上がってくるとB室の圧力は下がってきます(ほんとは逆でB室の圧力が下がって減衰力が上がるんですが)。
ここで極端な例を出しましょう、減衰力が無限大、つまりはピストンに穴が開いてなくオイルが流れないとします。シャフトを押し始めるや否やB室の圧力はぐんぐん下がって行きます。 更にシャフトを押すと(押してはいますが動いてはいません、オイルが流れられないのですから)ついにはB室は真空になりその先では空洞が発生し始めます。 これがキャビテーションです。 キャビテーションが発生しだすとシャフトが動き出します、でももう圧力は真空で変わらないので力は変わりません。シャフトから手を離すと真空に引っ張られてパコンと戻ってきます。

Cavity(空洞)が発生するからCavitationです。
ある偉いエンジニアが一緒にダンパーの試験をしていた時、私が「キャビテーションしてるんじゃない?」って言ったら「閉じた回路だからエアは入ってこないですよ」と言いました。キャビテーションはエアだと思っていたようですが空洞です空っぽです。 まあ多少はオイルに溶け込んでいた空気が圧力が下がって出てきます、コーラの栓を開けると泡が出るのと同じです、でもほんのちょっとです。

これを力-変位グラフで描くと図のようになります、真空になったところから圧力に変化がないのでたまごの頭が平らになります、そこで発生した空洞がつぶれるまで減衰力が発生しないのでたまごの側面がへこんでしまいます。

モノチューブダンパーがバンプで使えるのはガス圧から真空までの圧力ですから、ガス圧が高ければキャビテーションまでに出せる減衰力も高くなります。 キャビテーションは常用速度では起きないようにガス圧を設定するのが常道です。

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