第101回

101. <スプリング、プレロード>

スプリングについてはWeb、雑誌等でいろいろ書かれていますが突っ込みどころ満載の物もあります、なかにはもうサスペンションの神様が乗り移ってるんじゃないかと思わせるような記事もあります、もう宗教ですね。

必ず0G、1G、1G‘とかが出てきます、分かりやすくてすばらしい記号ですがあれらは日本が考えた物でよその国に行っても通用しませんのでご注意を。 宙に浮いて0G、重力が掛かって1Gなんてうまく考えましたよね、英語だと決まった単語がありません、car on a stand, car at ride height とか言っていたような? ドイツ語には単語があって1GをK.O. (カーオー)っていいます、なんの略かは聞きそびれましたが。

さてプレロードですがシンプルに行きましょう、スプリング基準で説明します、変位-力グラフ上のばね特性の線は動きません、そのばねのどこを使うかがプレロードや車重で変化します。 図の赤の細い線のようなスプリングがあります、まずはプレロードなしです、ダンパーのストロークは伸び切りから青の領域です。車をスタンドから降ろすと赤丸の所で釣り合いました。 バンプストロークがちょっとしかありません、その代りリバウンドストローク(英語圏だとDroop stroke の方が通じやすいかも)はたっぷりです。 これじゃ走るとすぐフルバンプしてしまう、そこでプレロードの登場です。(ピンクの分だけ掛けました)。 するとプレロードを掛けた先からダンパーストロークが始まります(緑部分)、一方車重とスプリングの釣り合う点は変わりませんからバンプストロークが増えてリバウンドストロークが減ってちょうどいい感じになりました。 つまりプレロードによってスプリングのどの荷重領域を使うかを選べるのです、プレロードを変えるとバンプとリバウンドのストローク配分が変わります。

プレロードを変えるとリバウンドストロークが変わるのは上で述べました、リバウンドストロークは車重とバランスする所からダンパー伸び切りまでのストロークです、言い換えれば伸び切りから車重(+ドライバー)でどれだけ沈み込むかの量です(2輪でよく使うサグ?)。 ダンパーが伸び切ったときは同じ長さ、同じ車高ですからリバウンドストロークが短いということは車高が高いということです。 つまりプレロードを掛けていくと車高が上がっていくのです。

2つをまとめるとこうです、“プレロード調整はストローク配分の変化を伴う車高調整だ”。

2輪とか自転車の解説でよく出てくる“プレロードを変えてサグを出せ“っていうのは大事ですけどその時車高も変わってるんだというのが抜けてる事が多くあります。 また2輪の別の記事には“リヤにプレロードを掛けて尻上がりの姿勢でキャスターを起こして...”とかありますが、これも姿勢は大事ですがストローク配分の話は抜けちゃってます。 2輪は重心が高くてホイールベースが短い(自転車はもっと)ので加減速での前後荷重移動が大きくて伸び切り、フルバンプが発生しやすくストローク配分はすごく重要だと思います、一方車両の姿勢が操安に大きく影響するので車高も大事、両方変えちゃうプレロードじゃ本来役不足です。

この2つ両方変わっちゃうのがプレロードのいやらしいところです、プレロード調整だけでストローク配分と車高(姿勢)の両方が良い所へ行けばいいですがそうとは限りません。 本当ならプレロードでストローク配分を決めてダンパーの全長で車高を調整して、というように別々に調整したいのです。 お高いダンパーには全長の調整がついていたり、一部の2輪にはフレームのダンパー取り付け側に調整がついていたり、レース車の多くはプッシュロッド式のサスペンションなのでプッシュロッド長で車高が調整できます、本来そうあるべきだと思います特に2輪は。

ちなにみどう調整しても底付き、伸び切りが出てしまうときはばねを固くするかストロークを伸ばして許容荷重範囲を広げるしかありません。 ばねを固くするの中にはメインのばね定数はもちろんバンプラバーやリバウンドスプリングも入ります。

ではプレロードがマスばねシステムに影響するか? プレロードを変えても図でもわかるように伸び切ったり底付きしたりしない限りばねとしては何も変わりません、車重とバランスした点を中心に振動します。 ばねは固くも柔らかくもなりません、一本のばねのどこを使うかが変わるだけです。 実際7ポストリグで加振しても何も変わりません。 でもレース界の人でも7ポストリグに来て「ちょっとプレロード掛けてみようと思うんですけど」って聞いてくる人もいます、「変えてもいいですけど伸び切らない限りリグでは何も変わりませんよ」って答えますが。 あくまでもプレロードは“ストローク配分の変化を伴う車高調整”でそれ以外の何物でもありません。


じゃサグはいくつがいいの? バンプ/リバウンドのストローク配分はいくつ? そういう話は神懸かりの人たちが2,3時間はお話してくれると思います。 ざっくり言ってダウンフォースのない車両ならバンプ60-65、リバウンド35-40%に設定しておけば走り始めからおかしい事にはならないでしょう。 2輪、MTBはもう少しリバウンド寄りで65/35-70/30%くらいですか?

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