第86回

86. <臨界減衰係数、減衰比>

前回減衰を強くしていくと振動が早く収まると書きました、ではどんどん減衰力を高くしていったらどうなるでしょう?

振動の収まり具合を初めから振動しなくなるまでの山の数で表してみましょう。 減衰なしの場合は収まらないので∞ですね。

減衰を上げていくと、100、50、10、5、2、1と、だんだん少なくなっていきます。 もっと上げたらどうなるでしょう?
もう振動しないでだらーんと0に近づいていきます。 もっと上げたらどうでしょう? だらーん具合が伸びていってゆーっくり0に近づいていき収束します。

もう振動しなくなったら振動を収めるっていうダンパーとしての仕事はできなくなっちゃいます、ですからダンパーとしての最大の減衰力は振動の収束までの山の数が0になる一番小さい減衰力になります。 つまり減衰力を上げていって山の数が減っていき、ついに山がなくなって振動じゃなくなる、その時の減衰力がダンパーとしての最大の減衰力になります。 この時の減衰力を臨界減衰係数っていいます、原子力の臨界と同じように振動の状態から振動しない状態へ状態が変化する減衰力が臨界減衰係数です。
臨界減衰係数は図にある式で計算されます、単位は減衰係数ですから(N/(m/s))です、そして質量とばね定数の関数です。
またここでkgとN/mを掛けるとなんで(Ns/m)だよっていう声がきこえますが、kgは力を重力加速度で割ったもの(kg=N/(m/s2))と置き換えるとなるほどとなると思います。

使っている減衰力がどれくらい強いかを表すのに臨界減衰係数に対する割合を使います、これを減衰比といいます。 たまに減衰係数の比率なので減衰係数比っていう人がいますが間違いです、正しくはシンプルに減衰比です。 まぁ気持ちは分かりますけどね。

臨界減衰係数はCc、減衰比は C/Cc と書くので通ぶった人は「シーバイシーシーをXXにしたらさー」とか言います、そういう人には「それってなんのこと?」って聞いてみましょう。

減衰比が1以上は振動しないのでダンパーというよりショックアブソーバー、エネルギー吸収器といった方がよくなります。 むかーし私の向かいに座っていた某ワークスラリーチームのエンジニアは減衰比は最低でも1以上に設定するって言ってましたがいくらジャンプとかの多いラリー車でもそれは固すぎでしょうと思いましたが世界チャンピオンには言えませんでした。

じゃあ車のサスペンションの減衰比はいくつにすればいいの?って言われたら私は「0.5でいいんじゃない」って言ってます。 減衰比0.5でダンパー作ったらとりあえず無事に初走行は迎えられます。 ドライバーはいろいろ言うでしょうが走れないことはありません。 まったく白紙から車を作りダンパーの設定をする人は試してみてください。

そこから低速の減衰力を盛り上げてみたり、バンプとリバウンドの差をつけてみたりすればいいと思います。 オールドスクールの神がかりみたいなおじさんの勘と経験に対抗するには科学でしょ。 なぜ0.5か? それはいつかまた。

でもそれはふつーの車での話で、車にすごいダウンフォースがあり、そのおかげでばねが固くて、もうタイヤと同じくらい固くて、さらに前後重量配分が50/50からずいぶんずれてて、なんていう車、つまりはフォーミュラの速い方になってくると当てはまらなくなってきます。 タイヤも含めてのサスペンション、ピッチングをコントロールするための減衰力等の要素が入ってくるためです。

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