第82回

82. <スカイフックダンパー>

これは実際の仕掛けではなく仕掛けを動かす制御ロジックです。

言うまでもなくダンパーはホイールと車体を繋いでいます(ばね下とばね上を繋いでいるか言った方が偉そうです)、ですからダンパーにとって車体が動こうがホイールが動こうが知ったことではありません。 車体が1秒間に5センチ上に動いても、ホイールが1秒間に5センチ下に動いても、どっちにしてもダンパーにとっては5センチ/秒のリバウンドです。(話はそれますがいまだにリバンプと言ってる人がいます、今週も雑誌に良い記事なのに中に“バンプとリバンプを独立して調整”と書かれていてせっかくの記事が台無しでした。)

これまでダンパー単体について書いてきたので触れませんでしたが減衰力はいつもあればいいというわけではなくて車体の揺れを止めるためには必要でホイールからの入力には必要ないものなのです。 たとえばタイヤが突起を乗り越える時にはサスペンションのストローク状態はバンプでバンプの減衰力がホイールの動きを妨げ、さらにその反力が車体を押し上げるので減衰力は低いに越したことはないのです。 もちろん乗り越えた後は車体の揺れ残りを止めるために減衰力が必要です。

というわけで車体の動きにだけ減衰を働かせようというのが“スカイフック理論”です。まるで車体が空に引っ掛けたダンパーにつながっているよう、というところから付いた名前です。 アクティブサスペンションは姿勢と制振の制御を油圧によって行いますがこの時の制振の制御はスカイフック理論を使います。

セミアクティブの場合昔懐かしのトロリーバスじゃないですから空にダンパーは繋げません、実際はどうするかというと加速度センサーを使って車体の動き(ダンパーですから車体の速度)を計測してそれに応じた減衰力を発生するように通常の位置の電子制御ダンパーをコントロールします。

電子制御ダンパーは通常はスカスカで減衰力なしで制御信号により減衰力を発生します。 車体が上に動いているときにリバウンドの減衰力を出したいのですがホイールの動き次第では車体が上に動いてもダンパーはバンプの時もリバウンドの時もあります、ダンパーリバウンド工程なら問題ないですが、逆の時は “リバウンドの減衰力を出したいけどダンパーがバンプ工程の時は減衰力は出さないことにする“というような面倒くさいほかの制御が必要になります。 バンプについても車体は下へ動いているからバンプの減衰力を出したいけどホイールがそれ以上速く下に動いていてリバウンド状態にあるので減衰力は出さない、というような制御をします、そのためセミアクティブでは完全なスカイフック制御は不可能です。
また走行状況に応じて切り替える電子制御ダンパーと違って車体とホイールの動きから減衰力を上げたり下げたり抜いたりをのべつ行うのがこのダンパーです。

これは90年代に日産からアクティブダンパーサスペンションとしてトヨタからスカイフックTEMSとして市販車に搭載されました。例によって後にはつながりませんでした。


これでダンパー講座、デバイス編は終了です。次回からはダンパーに加えてばね、車体を加えた“マスばねシステム”の中での制振としての減衰力について解説していきます。 まあよくある「ダンパーのない車は揺れが収まらず...」ってやつですが。

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