第76回

76. <周波数依存減衰力>

周波数依存型の減衰力デバイスです。
これまでにも説明してきたように減衰力は速度依存です、この速度依存に周波数依存も加えたのが周波数依存ダンパーです。ですから基本はあくまで速度依存のダンパーでそれに加えてダンパー変位の周波数によっても減衰力が変化するというものです。

これも1990年代前半には乗用車向に装着されたデバイスです、その後2000年代にコニがF1向け(マクラーレン)に発表しました。

なぜ減衰力を周波数により変化させたいか、させると何がいいかについては別の機会にということでここでは詳しく説明しませんが、簡単に言うとフワフワな動きは周波数が低くて動きが大きいので減衰力を上げたい、ゴツゴツとかショックとかは周波数が高く減衰力を下げたい、てなところです。

周波数依存減衰力にはいくつかの方法があります、低周波数用と高周波数用の減衰バルブを切り替えるもの、減衰バルブは1つで低周波でバルブのスプリングの押し付け力を変えて減衰力を変えるものなどです。図は2つのバルブの切り替えの概念図です。

いずれにせよ周波数を検知しなくてはいけません、これにはオリフィスと小部屋を使います、図のように構成されています。 ダンパーの変位の周波数が低い時はオイルの流れの切り替わりがゆっくりで時間があるのでオイルはオリフィスを通って小部屋に流れ込みます、ですから小部屋の圧力が上がります。 この上がった圧力で切り換え弁を切り替えて高い減衰力にしたり、減衰スプリングにプリロードを掛けたりするのです。 では高周波の時はどうでしょう?周波数が高いとオイルは小刻みに流れたり止まったりします、するとオイルの流れる時間が短いので小部屋に十分流れ込めません。 ですから小部屋の圧力も上がらず切り換え弁は切り替わらず減衰力は低いままになります。

こういう高周波数を止めて低周波数を通すようなデバイスをローパスフィルターと言います、低い周波数(ロー)を通す(パス)フィルターです。逆はハイパスフィルターです。 どういうわけか逆に覚えてる人がいますので注意です。

ローパスフィルターは電気にもあります、っていうか電気の方が一般的です。ステレオについている音質調整のBassとTrebleってありますよね、あれもフィルターです。 Bassはローパスフィルターで低音の通し具合を変化させて低音を調整します、trebleはハイパスフィルターで高音を調整します。 電気のローパスフィルターは抵抗とコンデンサーを組み合わせで構成されています、油圧のオリフィスと小部屋とそっくりです。

どの周波数でどれくらい通すかはオリフィスと小部屋の容量で決まります。

これも普及しなかったデバイスです。
台上試験でずっと低周波、ずっと高周波で加振したら確かに減衰力は違って期待したように働くでしょう。でも現実の路面からの入力は低周波も高周波もごちゃまぜです。 たとえば1Hzと15Hzが混じった波形で加振したらどうなるでしょう?減衰力切り換えバルブは低周波には反応して高周波には反応しません、この場合反応するのでしょうか?しないのでしょうか? 反応してもしなくても混ざっている2つの周波数の一方には良くてもう一方には良くありません。
というわけで台上試験では効果あるけど実際に走るといまいちみたいなデバイスです、仕組みもえらく複雑ですし。

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