第38回

38. <減衰力グラフの見方、不具合の発見>

ついでですからダンパーの不具合があるときに減衰力の力-変位グラフにどう現れるか説明します。


No.1 バンプの始め、リバウンドの始めが凹んでいる
これはダンパーにエアが入っているとこうなります、工程の始めにエアを押しつぶしている間油圧が上がらないので減衰力がなかなか発生せずグラフが凹んでしまいます。 エアの入っている場所によってバンプだけ凹んだりリバウンドだけ凹んだり、両方凹んだりします。 ダンパー組み立てのときによくエアを抜かないで組んだことが原因ですからもう一回きちんと組み直せば直ります。

No.2 減衰力の切り替わりにスパイクが出る
これはエア混入のように簡単には直りません、これはバルブの張り付きによる物だからです。 例えばシムがピストンの表面に張り付いてスムースに開けず急に開くときにこのスパイクが出ます、紙をテーブルの上において端を勢い良く持ち上げると紙は一瞬テーブルに張り付いた様になりそれから持ち上がります、表面張力ですね、これと同じです。 ポペットバルブがポートに張り付いても同様のことが起きます。 こういうダンパーは乗り心地が悪い、しっとりしないってやつですね。 まあこれは感応評価ですがもっと悪いのは乗用車ではこれが原因で音が出ることです、コトコトいう音になります。 急激な減衰力の変化があたかもダンパーが車体をノックしているように作用してボディを共振させて音がするのです、ひどいとトランクにナットが転がってるかと思うような音がします、ダンパー打音といいます。 音のレベルはボディ、ダンパーのマウントでも変わってきますが大本はダンパーのスパイクです。 これを直すにはピストンとシムの接触面積を減らさないといけません、ピストンのデザインが変わってしまいますから面倒です。第27回のピストンの項でいいデザイン悪いデザインと書いたのはこのことがあるからです。 ついでに言うとピストンの表面の粗さ(面粗度)も張り付きには大事です。つるつるは張り付き易く、ざらざらじゃオイルが漏れちゃう、ちょうどいい粗さが必要なのです。

No.3 ステップ
これはスパイクとは逆でバルブの閉まり遅れで起こります、反対の工程に入っているのにバルブが閉まり遅れているので閉まるまで減衰力が出ず、閉まると急激に減衰力が発生することでステップになります。 ダンパーシャフトを手で押し引きするとコクコクとガタがあるように感じます。 一番多いのはメインのバルブやシムではなくて一方通行バルブ(ワンウェイバルブ)の閉まり遅れです。一方通行バルブですから開くときは大きく開いて抵抗なく油を通さなくてはいけません、そうすると大きく開いた弁が閉じるときに遅れてしまうのです。 これも2のスパイクと同じくらいダンパー打音の原因になります、やはり急激な減衰力の変化が悪さをするのです。 これを直すには弁が無駄に大きく開かないようにしないといけません、少々抵抗になって減衰力が出ちゃってもしょうがないくらいにしましょう。大体ダンパーの中のこういうパコパコ動くものはろくなことがありません。 ピストンリングにガタがあっても同じことが起きます、でも逆にリングが溝にきついとフリクションになってしまいます、ガタなくきつくなくこれまたちょうどいい頃合が必要なのです。


No.4 キャビテーション
ダンパーの中で圧力が下がりすぎて負圧になり空洞が出来ることで起きます。 圧力がそれ以上下がりようがないのでたまごの頭が平たくなります、さらに空洞がつぶれるまで減衰力が出ないので大きく凹んだ形になります。 これは別に詳しく説明します。 ダンパーの各部屋の圧力バランスを見直しても直りますが手っ取り早いのはガス圧を上げることです。

No.5 たまごが傾く
減衰力とスプリング力が混ざるとたまごが傾きます、スプリング力は力-変位グラフで直線ですからスプリング力が減衰力に乗っかるとスプリング力の傾き分たまごが傾きます。 これはダンパーの空気だまりが小さすぎる時に起こります。シャフトの出入りによる容積変化に対して空気だまりが小さすぎると空気だまりの圧力変化が大きすぎて空気ばねとして作用してしまうのです。 空気量を多くしないといけません、フリーピストンの位置をもっと下げて空気室の容量を大きくしないといけません、それでも足りないとダンパーを大きくしないといけなくなっちゃいますから始めによく考えておかないといけません。 でもどんなに空気だまりが大きくなってもストロークによる圧力変化はゼロにはなりません、だから空気ばねをどれくらいまでに抑えるかという考え方の問題になります。

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