実践編、まずは色々なダンパーの種類についての説明から始めます、その中から1番はモノチューブダンパーです。
モノチューブダンパーは見たとおりチューブが一つです、その中をピストン/シャフトが往復する最も単純な構造です、基礎編でも出てきました。
12番のシートで説明したようにモノチューブダンパーは加圧なしには成り立ちません。加圧量は必要な減衰力により決められますが一般に10気圧とか20気圧とか加圧します。
これはかなりな圧力です、火に入れたら大変なことになるので捨てる時は穴を開けてガスを抜かなければなりません。
1重の筒にオイルを入れてピストン/シャフトを差し込めば出来上がりですからコストは低く、でもヒステリシスの小さい性能の良い優れたダンパーです。
筒が一重なので放熱性も良好です。
オイルとガスの間に仕切りがないと車が走っている間にオイルは泡だらけになって減衰力がまともに出なくなってしまうので大概はフリーピストンが入っています。
弱点はオイルが漏れると致命的な問題に発展することです。
直線運動のシールは回転のシールより難しいです、シャフトの微小な凸凹にオイルが入ってシャフトと共に出たり入ったりするのでどうしても漏れ易く高温ではシャフトの表面からオイルが蒸発したりします。
そうでなくてもシャフトに傷や凹みがあるとオイル漏れを起こします、するとそうなるでしょう?オイルが抜けた分フリーピストンが下がってきます、もっとオイルが抜けるとどうなるでしょう? 終いにピストンに衝突してダンパーが動かなくなってしまいます。
もう一つ、フリーピストンにもオイルとガスを分ける為に周りにOリングが巻きついています、そこが漏れるとオイルがガス室へ入ったり、ガスがオイル室に入ったりします。 するとオイルがガス室へ移動した分フリーピストンが下がってくるので外部へのオイル漏れと同じくフリーピストンとピストンの衝突が起きてしまいます。
今は加工精度やオイルシールの性能が上がってめったにオイル漏れやオイルの移動は起きませんから安心ですが昔は問題を起こしたこともあるダンパーの形式です。
ショーワというダンパーメーカーは昔々この問題を起こして経営が怪しくなってホンダ系列に入ったのです。
オイル漏れの危険性を克服して性能のいいダンパーを作ったのでビルシュタインは有名になったのだと思います、ちなみにビルシュタインの会社のマークにはこのモノチューブダンパーが描かれています。
もう一つの弱点は出せる減衰力に限度があることです。基礎編で説明したようにバンプ工程では図においてピストンより下の部屋が膨張して圧力が下がることで減衰力を発生するので、その圧力の下限は0気圧(真空)でそれ以下にはなれない、つまり減衰力もそれ以上は出ないと言うことになるのです。
通常の走行でそうならないように初期の加圧量を決めますが大入力が入った時にはどうしても0気圧まで下がってキャビーションを起こしてしまいます。
構造上ストラットには向きません、筒の外側にスプリング受けを溶接すると筒がゆがんでしまいピストンが引っかかってしまいます。ストラットとして使うには図のようにばね受けの付いたストラットケースの中に入れて使います、でも構造が複雑になり潤滑も難しくなるのであまり使われません。
量産車ではストラット形式も含めて特別仕様車などに使われています、レースでは構造上バンプとリバウンド各々にアジャスターを設けるのが難しいので減衰力固定式のダンパーとして初級レベルのツーリングカーやラリー車に使われています。