イナーターのきちんとした情報が足りないと思います、イナーターについては第96回で書いていますがまだまだ伝わっていないし足りないように思えるので詳しく書いてみたいと思います。
4,5回は続きます、内容はちょっと難しいかと思います。
雑誌にはF1で使われている凄いしくみみたいにふわっとした雰囲気と写真だけが伝えられ、レース関係のエンジニア達もイナーターがどういう理屈でどう使ったらいいのか使いこなせるかが分かっていないエンジニアが多いように思います。
ダンパー屋さんとかなら理屈はわかんないけど物はボールナットですから作ってくる、「イナータンスの設定は雰囲気だけど使ってみて―」みたいなもんです、
トップフォーミュラーなどでもとりあえず物は手に入れてみて、「着けて走ってみるかー 良くわかんないけどとりあえずそのまま着けとくか―」くらいのノリで使ってる、そんな気がします。
緊急事態宣言でレースチームも暇な間2DOF,4DOF マスばねシミュレーションの問い合わせが何件かエンジニアからありました、うれしいことです。
「イナーターもモデルに入れてみます」なんていう人もいました。
そんな人を含めてじいさん名エンジニア達をへこませてくれることを期待して書いてみます。
第96回の補足から入ります。イナーターは直線運動をボールナットで回転運動に変えて重りをぐるぐる回すものです、構造自体はシンプルです。
イナーター力の式をもう一度式(1)に書きました、直線運動の加速度に比例した力を発生することが分かります、これは大事なことですので憶えておいてください。
そして定数の部分をイナータンスと言います、ばねでいうところのばね定数ですね、単位はkgです。
この加速度依存の力であることについて大事なところなので説明します。
ばね力は変位依存です、減衰力は速度依存です、イナーター力は加速度依存です。
変位の微分が速度、速度の微分が加速度です、微分っていうより単位時間当たりの変化って言ったほうがい分かりやすいですかね、図のように変位がSinなら速度はCos、加速度は-Sinです、高校の数学で習いましたね。
変位と加速度は同じSinでプラスマイナスが逆です、つまりイナーターはばね力と逆向きの力を発生させるのです、動的にということですよ、ばねと違ってイナーターは静止状態では力を発生しませんから、加速度がゼロですから。
この逆向きというのはベクトルで説明するとわかりやすいかもです
SinとCosは位相が90度違います、1/4波長分(90度分)横にずれた形になってますよね、ばね力(Sin)と減衰力(Cos)は右の図のようにベクトルで表すと90度向きの違う力になります。
イナーター力(-Sin)は? -Sinはスプリング力の逆向きですから180度向きが違う力になります、つまり1階微分ごとに90度位相が変わるということです。
右の図にばね力、減衰力、イナーター力をベクトルで表しました。 ばね力、減衰力、イナータ―力と順番に90度づつ方向が変わっています、この3つの力の合力が統合サスペンション力となりばね上ばね下の質量の間に働いています、ここで統合サスペンション力とばね力との角度Θに注目してください、Θが大きい程減衰力の方向に振れている、つまりサスペンション力に占める減衰力成分が大きくなるのが分かると思います、このΘは減衰力の効きを表すのに都合がいいので次回から使いますから憶えておいて下さい。
減衰力の効きを表すものに減衰比があります、第86回も見てください、振動しなくなる臨界減衰係数のどれくらいを使うかの数値です、本来なら減衰力の効きを表すには減衰比を使うべきでしょう。
Θは減衰比と一緒ですかっていう質問をされる時がありますが同じではありません、Θは単純にばね力と減衰力の比率です。
ばね定数や減衰力を変えた時はばねを固めたらΘは小さく、減衰力を上げたらΘは小さく、変えたなりに反応しますが車重を変えても反応しません、減衰比はきちんと小さくなります。
でもばねや減衰力を変えた時はきちんと変えた分変化するので使い方を分かっていれば減衰力の効きをうまく表現できます、計算するのが簡単ですし。