第112回

112. <トヨタ86アフターマーケットダンパーのリグ試験 (2)>


さぁ86アフターマーケットダンパーのリグ試験結果を見ていきましょう。
ひとつお断りしておきますが試験したのは2013年です、まだ86が出たての頃の製品たちです、2020年の今は状況が違うかもしれません。

4つのアフターマーケットのダンパー/スプリングを試しました、まあ名前は伏せておきましょう、試した順番にショップA, B, C, Dとしました。
1台の車両での試験ではなくそれぞれ別の車両です、4名の86オーナーがそれぞれ自分の車を持ち寄って比べてみたっていう形式です。

ざっと全体を見るとショップBだけは他と違い上に突き抜けています、フロントもリヤも山のピークがすごく高くて痩せています、前回書いたようにこれは減衰力が低すぎです、おかげでばね下も盛大に共振しています。
しかしこれには裏があります、ショップBのプロットの右側に小さい同じ様なプロットがあります、これは入力のレベルを良路相当に落として加振した結果です、こういう時に入力で割った出力/入力の比で表していると直に比較することができます。
ピークは大分低くてすそ野も広がっています、さらにフロントの赤の線は左端の所で10の0乗(1ね)でフラットになっています、タイヤの黒線も1でフラットですからタイヤも車体と同じ変位つまりタイヤもサスペンションも動いてないということです。
これが何を意味するかというとフリクションが高いということです、入力が小さいと途端に動かなくなりさらにフロントは低周波で動いていない、これらは典型的なフリクションが高いサスペンションの特徴です。
つまりダンパーの減衰力はまるっきり低いんですがフリクションがそれを補っていて良路を走っているうちは気が付かないということです、このダンパー調整式なのにこれで乗って来たんですからね。
一方ばねはフロントは20%上がって2.15Hz、リヤは量産のまま、 フロントがだいぶ固くなっていますがリヤが同じなのでそれほどの突き上げでもないと思います。 4車の中でワースト1でしょうね。

次はショップCです、ともかく固いのです、ばねも減衰も。
ばね上共振がフロント 3.3Hz、リヤが2.95Hzです、GT3かっていうくらいです。 さらに山のすそ野の広がりを見てみても減衰も高い。
フロントの車体の動き(赤線)とタイヤの動きの(黄色の線)が同じような形でピークも同じような高さです、これは車体の動きはほとんどタイヤからきているという意味です、つまりほとんどサスペンションは動いてなくてタイヤでピョコピョコしてる状態です。
オーナーもさすがに固いと思っているようでした、でもこれってアフターマーケットダンパーにありがちな問題だと思います、高いお金出して買うんだからやっぱりノーマルとは違う!っていうのが分からないとと思っちゃうんじゃないでしょうか。
昔々私もアフターマーケット用ダンパーに関わったことがあってそれは電動3段階可変だったんですがその時ショップの人は「ハードはとにかく脳天にくるくらい固くしてください」って言ってました。 いい悪いじゃなくて変わったのが分かるっていうのが高いお金を取るには大事なんでしょう。

ショップAとDはまあまあでしょうか、でも前後ばねバランスはイマイチだし減衰ももっと整えたい。
ショップDのフロントのフリクションは大分高いですね、小入力ではろくに動いてないです。

この4つが86のダンパーの全てではないわけで人気車だけにたくさんのダンパーがいろんなショップ、メーカーから出ています。 試験したのもまだ86が出たての頃ですから今は状況は変わっていいものもあるんでしょうが「とりあえずなんか固いの作ってきてちょうだい」みたいにして作られた物も多いんじゃないでしょうか?
時間もお金もかけてないし、ましてリグなんかで試験したりもしない、それでいて高いお金で売るのは好ましくないですよね、そもそもどう設定すればいいかわからないで「おっガチガチ、いいねぇ」なんて所もあるかもしれません。
ユーザーも何を拠り所に選べばいいかわからないですよね、減衰力は外から見ても分かりませんから。
ショップの知名度、誰が使ってるかで選んだりすることもあるかと思います、でも今回の4車のオーナーは日本のレース界ではだれでも知ってる有名トップドライバー、エンジニアたちですよ、それでこのチョイスですからねぇ(笑)。

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