第111回

111. <トヨタ86のリグ試験>


リグ試験結果から見たアフターマーケットダンパーの闇について書こうと思ったんですがその前にリグでの加振試験の結果の見方について解説しておかないと。

リグでは路面からサイン波の上下入力を行います。 そのサイン波は低周波から高周波まで時間と共に変化して行き、それに連れて振幅も変化していきます。
そして車両にはいろいろセンサーをつけて解析をするんですが乗用車の場合1番注目されるのは車体の上下動ですかね、日産系の人は「上屋の動き」とか言いますよね。
入力の大きさが変われば車体の動きの大きさも変わってくるので 車体の動き / 路面の動き 左上の図でいうと X/Z の比率で評価します

振動には共振と減衰がつきもので、振動数によって動きが変わってきます、なのでグラフは横軸が周波数で縦軸が車体の動き / 路面の動きの比率になります。
横軸が周波数になると途端に拒絶反応が出ちゃう人がたくさんいます、時間波形と違ってイメージしにくいですよね。
まあ簡単に言うと例えば5Hzのサイン波で加振して路面振幅が1で車体振幅が2だったら5Hzの2の所に点を打って、いろんな周波数で点を打ってそれを結んだグラフだと思えばいいですかね。
実際は連続的に周波数を変えていって後で伝達関数という計算をするとグラフを書いてくれます、同時に路面と車体の振動の位相差も計算してくれます、これをボード線図といいます。
縦軸も横軸も対数スケールなので抵抗がある人も多いと思いますが振動ものは対数スケールなんでしょうがないしあんまり気にしなくて大丈夫です。

結果の例として86の量産車の結果を載せました、フロントとリヤです。 試験したのは2013年と86が出てすぐの頃なので現行車は変わっているかもしれません。
ここでは黒色の線でホイール変位/路面変位も加えました、これがあったほうが動きの具合がイメージしやすくなるので。
赤と青の線は車体の動きの線で、路面入力に対する車体の動きの比率ですから線が下の方にあるほど車体の動きは小さくていいことになります、逆に1(10の0乗ね)を超えているのは入力より車体の動きが大きいということになります。
山の形をしてますね、山の頂上が共振点でその周波数をばね上共振周波数といいます、ばね上固有振動数とか言ったりもしますね
ヨーヨー風船(お祭りのあれね)をぶら下げて引っ張って離すとびょんびょんてなりますよね、あれです、あれが共振でびょんびょんの速さが共振周波数です。
周波数が高い程ばねが硬いことを表しています、フロントが1.8Hzでリヤが2.15Hzです、だいたいスポーツカーって言われる車はこのあたりです、86ですからなるほどって感じですね
今はあんまり見ませんが昔はブヨンブヨンの柔らかい車がありました、昔のクラウンとかシトロエンとか、すごく柔らかくて1.0Hzくらいです
そうです乗用車は大体1から2Hzの間にみんな入っちゃうんです、昔自動車会社のエンジニアに「この車のばね上共振はなんヘルツですか?」って聞いたら「うーん 1から2ヘルツの間かな」って言われました
知ってる人だと「はー?答えになってない」と思うでしょうがそうでない人には数字を出すと「ほー すごいな」と思わせられるので使ってください。

ホイールの動きの線の黒線のピークがばね下共振点です、ばね下共振点は大体15Hzくらいなのですがリヤはきれいに出てますがフロントは出ないでばね上共振点でピークを持ってしまいました。
ばね下共振はきれいに出ないこともよくあります、フロントはエンジンとかラジエターとかやっぱり共振を持つものがありその影響を受けたりするので。

減衰はピークの高さとすそ野の広がり具合で分かります、ピークが高くてすそ野が急でとんがった山は減衰が低く、ピークが低くすそ野がなだらかな平たい山は減衰が高いということを表しています。
ピークを下げてすそ野がも急に下げてっていういいとこ取りはできません。
このように山のピークの上下左右位置、山のとんがり具合で車両のサスペンションの性格がおおよそ分かります。
この86の場合、乗用車としては比較的硬め、減衰力は中よりちょっと硬めって感じでしょうか。

もう一つサスペンションの評価で大事なのは前後のバランスです、フロントとリヤの動きがばらばらだと車がピッチングしてしまいます。
一番左の図にフロントとリヤを重ね書きしました、どうです?2つの山のすそ野の傾きがそろっていて山がリヤはちょっと右(高い周波数)にずれた形になっています。
乗用車の場合リヤのばね上共振周波数がフロントよりちょい高いっていうのがよく見られるセッティングでうまくいくようです、この理由はまた別の機会に。
2つの山が大きく離れていたりすそ野がそろってなくて交差しちゃったりすのはピッチングが大きくフラット感に欠けてしまいます。
86はいい感じですね。

こんな風に車体、ホイール変位のボード線図からサスペンション設定、車両の味付けみたいなことが分かります、これを踏まえて次回86アフターマーケットダンパーの設定を見て行こうという趣向です。


まあ慣れないと路面、ホイール、車体がどんな風に動いているかイマージしにくいですよね、そこでアニメで動きを表してみました。
1つ目は2.0Hz(ばね上共振周波数)での動きです、ホイールは路面と同じように動いて、車体が位相遅れを伴って大きく動いているのが分かります、この車体が路面に遅れて動くのが共振の特徴です。
2つ目は13Hz(ばね下共振周波数)での動きです、ホイールだけが地団駄踏んでいるように動いて車体はろくに動いていません、これがばね下共振の特徴です。

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