第106回

106. <7ポストリグ (トラックシミュレーション)>

7ポストリグのちょっと高級な使い方です、トラックシミュレーションについて説明します。

3本のエアロローダーで車体にダウンフォース、ピッチ、ロールモーメントが負荷できることは前回書きました。これを使って車両がサーキットを走っている状態を再現しようというものです。 サーキット(trackって言った方ががかっこいいかもです、でも発音が悪いとtruckと間違われるので止めといたほうがいいいかも)で計測したデータ、エアロマップ、重心高などの車両諸元が必要になります。

まずはリグ上でダウンフォースを再現する理屈です、リグに載せた車に車高センサを取り付けて地面からの距離を測ります。その車高を使ってエアロマップからダウンフォース係数を求めます。 エアロマップってなによ?って言われると思いますがダウンフォース(特にフロントウイングとか床で出すダウンフォース)は車高により変化するのでダウンフォースの強さの度合い(係数)をフロントの車高、リヤの車高のXYグラフにしていったものがエアロマップです。
もうちょっと説明するとエアロマップはあるフロント車高、リヤ車高の時の係数をいろんな車高でプロットしていったもので、それは3次元になります、係数の大きさを色で表したのが図にあるものです、横軸がリヤの車高で、縦軸がフロントの車高です、山の地図の等高線みたいに同じ係数を線で結んでいます。 上の図がフロントで下がリヤです。オレンジ色はダウンフォースが高くて青は低いです。 空力屋さんにとってはとても大事なグラフでよその人にぜったい見せたりはしないグラフです、図はそれらしく作ったものです。 そんなエアロマップがないとできない事なのでこのトラックシミュレーションはかなりレベルが高いチームや会社でないとできません。

さてダウンフォースは式で書くと F=1/2x (空気密度)x (車の全面投影面積)x (速度の2乗)x (係数) です、空気密度や面積は決まった値を使います。 そして係数に比例で速度の2乗に比例ですね、係数は今エアロマップから求められましたが速度がまだです、だいたいリグ上では車は走ってないし。 速度は車でサーキットを走ったときのデータを使います、これでダウンフォースが計算できます。

次はピッチモーメントです、これは車重と重心高とサーキットデータの前後Gがあれば計算できます。 ロールも同じです、前後Gの代わりに横Gを使います。

さーて準備はできました、サーキットデータから時間に合わせて車速、前後、横Gを順次読み込み、リグ上の車からその時の車高を読み込み、速度と車高からエアロマップを使ってダウンフォースを、前後Gからピッチ、横Gからロールモーメントを計算します。 それを合計して3本のエアロローダーの力に振り分けて出力します。

するとたとえば1コーナーのブレーキングでぐっとフロントが沈んで、続いてロールして、今度はリヤが沈んでというコーナーのブレーキング、旋回、加速を実データのまま再現できます、そしてストレートに出ると車速につれてダウンフォースで車高が沈んでいくのが分かります。 この時路面からの入力はないので計測されるデータはスムースな線になります。

これを使って車高やばね特性のチューニングが出来ます。 ダウンフォースを稼ぐのに車高は下げたい、でもそうするとストレートで車体の底が地面に擦っちゃう、どのくらいのイニシャル車高がちょうどいいかとか、どのくらいばねを固くしたらちょうどいいかとか。 高速コーナーのステアバランスがちょっとアンダーステアだから高速コーナーではもうちょっとフロント車高を下げてダウンフォースを増やしてそれで押さえるようにフロントのばねの非線形性をちょっと弱めてやってもちょっとストロークするようにしてやろうとか。 いやリヤの非線形性を強めてリヤの車高を高めに保って車の姿勢をちょっと前のめりにしてダウンフォースのバランスを前寄りにしようとか。

ダウンフォースの大きい車のサスペンションは振動吸収だけでなく、どう車高をダウンフォーに良い所に持って行くかも考えないといけません、いやそっちの方が大事な時もあります。

実際やってみると簡単にはうまくいきません、またコンピュータのラップタイムシミュレーションでも同じことはできます、しかしこれもまたそう簡単には使えるようになりません。 でもこういうことを積み重ねていくのが近代レースというものです、そうじゃないといくらでも走れた時代の膨大な経験を持ったじいさん達を追い越すのは簡単じゃありません。

もちろんこれにサーキットで測ってきたデータで作った路面入力も加えることができます、「菅生の最終コーナーのバンプでリヤが底づきするのを抑えるバンプラバーの設定」とかが出来ます。

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