ばね、ダンパーの計算ができるようになったら実際に計算で車の仕様を決めて組み立てます。
その時ちゃんと計算通りにできたかチェックしなきゃなりません、そこで登場するのが4ポストリグです(shaker rig って言う人はアメリカ派です)。
エンジン組み立てたらシャシダイナモでパワーのチェックしますよね、それと同じことで完成車のサスペンションは4/7ポストリグでチェックするのが近代レースというものです。
というわけで4ポストリグはサスペンションの試験機です、車メーカーならどこでも持っているでしょうしKYBなどのダンパーメーカーも持っています。
車両を乗せてタイヤ下から上下加振を行います、アクチュエータは油圧で動きます、機械としては車全体が載るので大がかりですが仕組みはシンプルです。
ではどんなふうに使うのでしょう?
シミュレーションと同じです、路面からサイン波やランダムの入力をして、ばね下やばね上(ボディ)がどのように動くか、共振周波数はいくつか、減衰の効き具合はどうかなどを周波数解析をしてチェックします。
路面入力は図にあるようにサインスイープといってサイン波の周波数が時間と共に高くなっていく波形を使ったり、実際の路面のようなランダム波形を使ったりします。
どちらの場合もその振幅をその車の走る路面に合わせて選びます、ラリー車のグラベルなら大きい入力、サーキットレースなら小さい入力というようにです。
加振台には荷重計が仕込まれているので走行中には測れない接地荷重が直接測れます、接地荷重っていうのはタイヤがどれだけ地面に押し付けられているかを表す数字ですからとても大事です。
ダウンフォースを除いてはタイヤを地面に押し付けるのは車重だけです、そして接地荷重は車重による荷重を中心にサスペンション、車体の動きにつれて増減します。
ですからダウンフォースのない車でタイヤの接地性つまりはメカニカルグリップを改善するということは接地荷重の“変動”を小さくすることとなります。(今言っているのはあくまで直進状態で前後左右の荷重移動のない話をしています、荷重移動についてはまたあとで)
まあ簡単に言って、路面から入力があり、車体やサスペンションが振動する時、車体が下向きに動いてサスペンションが縮むときは接地荷重が上がるからOK、反対に車体が上向きに動いてサスペンションが伸びる時には接地荷重が下がって地面をつかみにくくなるから何とか接地荷重が抜けないようにしよう、ってことです。
押し付ける方が抜けるより多ければいいじゃん、なんて言う人がいましたがそんなうまい話はありません、増えた分は減って差し引きゼロ、そうじゃないと車重が変わったことになっちゃいます。
荷重変動を減らすにはどうしたらいいか? ばねが柔らかいことです、サスペンションが路面の通りに動くのに車体が動かない、そうです究極のサスペンションはチキチキマシン猛レースに出てくるタイヤが路面のおっきい凸凹を超えても車体が全く動かないあの状態です。
ばね定数がゼロに近く、サスペンションストロークがとーっても長ければ路面の凸凹をタイヤが通過してサスペンションを動かしてもばね力の変化は小さく車体の上下動も最少、そんなサスペンションがメカニカルグリップ最高、乗り心地最高になります。
でもそんな車はまず車高が高くて乗り込めないし、ブレーキ掛けたらつんのめるし、コーナーではひっくり返りそうになって乗ってられません。
これが前にも書いたサスペンションに対する路面入力と車体慣性力入力の違いです、車メーカーの乗り心地屋さんと操安屋さんがいつも喧嘩する種です。
つまりサスペンションのチューニングは乗り心地と操安のバランスのものなので4ポストリグだけでサスペンションセッティングの答えが出るものではありません、でも乗り心地は乗り心地、操安は操安で数値化するというのはとても大事でそうじゃなきゃ比べようもないし、今自分の車がどんな状態にあるのかも分からないことになっちゃいます。
また物事はやってみなきゃわからない事はたくさんある訳で、4ポストリグで加振したら共振周波数が計算と全然違っていて計算方法に間違いがあるのが分かったり、計算には入っていない各部のフリクションや剛性が結果に影響しているのが分かったり、減衰力のグラフをバンプとリバウンドを逆に見てたり、ダンパーのアジャスターの調整方法が違ってたり...
そういうことを走ってチェックしようと思ったら大変な時間とお金がかかってしまいます、だから台上試験は大事なのです。
あと評価ドライバーの言うなりに変えていった車を加振してみたら前後のバランスが悪くてピッチングがひどかったり、これはばねでバランスを取らなきゃいけないのにダンパーで何とかしてたのが原因。
事前の計算は大事、そしてその確認もとても大事という話でした。