最近どうも○○はんが気になってしょうがない。
(最初はあの子の保護者ぐらいのつもりやったはずやけどなぁ…)
いつも真っ直ぐで一生懸命な○○はんを見ているうちに、忘れていた感情が自分の中に芽生えていた。
(不思議な子やなぁ…徳川の為に生きると決めてから、おなごに気がいくことなんて、あらへんかったのに…)
そんなことを考えていると、玄関から可愛らしい声が聞こえてくる。
『ただいま戻りました』
襖を開けて顔を出すと、○○はんがにっこり笑って言う
『秋斉さん、ただいま戻りました。』
(この子の笑顔は、周りをあかるうしてくれはる)
私は置屋の主人の顔で出迎える。
『ご苦労さんどした。』
私が薄く微笑むと、○○はんはいつもはにかむような仕草を見せる。
その仕草を見ると、○○はんを私のものにしてしまいたい衝動にかられてしまう。
○○はんが新造としてお座敷にあがるようになって、座敷での評判も上々。
一部の旦那の間では、太夫にとの声もあがっている。
(置屋のことを考えたら、○○はんを太夫にするんは悪いことやない…)
それでも○○はんを太夫にする話に、首を縦に振ることができない。
○○はんが部屋へあがるのを見届けてから襖を閉める。
(新造の今は誰も○○はんに手を出すことは許されへん。でも、太夫になると話は違う…)
置屋の主人としての考えと、男として○○はんを愛しく思う気持ちが入り混じる。
(ふ〜、今日はなんや疲れましたなぁ)
そう思いながら帳簿をめくっていると、襖の向こうから声がかかる。
『秋斉さん、ちょっといいですか?』
『どうぞ』
と、声をかけると、襖が開いて○○はんが顔を出す。嬉しく思っている自分を隠して、置屋の主人として声をかける、
『○○はん、どないしはりました?』
私の前に正座すると、○○はんがまっすぐに私を見つめる。
(この子はほんまにえぇ目をしとる。本気になったら立派な太夫になるやろなぁ…)
そんなことを考えていると、○○はんがとんでもないことを言い出した。
『私、太夫をめざします。』
私は思いがけない言葉にギョッとしてしまう。
『突然どないしはりましたんや?』
平静を装ってそう言うと、○○はんはまっすぐ私を見つめたまま言葉を続ける、
『置屋の…秋斉さんのお力になりたいんです。』
(ほんまに…人の気もしらんと…)
そう思うと、つい意地悪を言いたくなった。
『太夫になったら客をとらなあきまへんえ?○○はんはそれでもえぇんどすか?』
私の言葉に○○はんが俯いて言う。
『それでも私は…秋斉さんのお役に立ちたいんです…秋斉さんのお側に…』
震える声で言う○○はんの手を思わず握ってしまう。
私は俯いたままの○○はんの顎を軽く持ち上げる
○○はんが驚いた顔で私を見つめる。
『私の役に立ちたいと言わはるんやったら…太夫はあきまへん。私以外に触れさせとぉありまへん。』
私の言葉に○○はんの顔が赤くなる。
(ほんまに可愛いお人や…私をこんな気持ちにさすんやから)
『言うてる意味わかってはりますか?』
私がクスリと笑いながら言うと、○○はんが恥ずかしそうに首を傾ける。
『こうゆうことやから、よう覚えとき』
そう言って私は○○はんの唇に優しく口づけしたのだった。