今日は朝からあまり天気がよくなかった。
(やっぱり降ってきちゃった…)
秋斉さんにお使いを頼まれて、すぐ近くだからと傘を持たずに出てきたけれど、お使いの買い物を終えて店を出ると、雨が降り始めていた。
(近くだし、走って行けば大丈夫だよね。)
そう思って、買い物の荷物を濡れないように抱えて走り出すと、途中で雨足が強くなってきた。
(これはちょっとマズいかも…)
どんどん強くなってくる雨に耐えきれず、近くの店の軒先で少し雨宿りする。
着物についた雨を払いながら空を見上げるが、雨はしばらくやみそうにない。
(困ったなぁ…)
そう思いながら、やまない雨を見ていると、通りを走ってくる人影が見えた。
走ってくる人影に、私の胸がドキドキと音をたてる。
走ってきたのは、高杉さんだ。
高杉さんは、軒先にいる私を見つけると、私の横に駆け込んだ。
『よう。お前も雨宿りか?』
高杉さんは、かなり雨に濡れてしまっていて、ポタポタと髪から雫が落ちている。
『はい、お使いの帰りに降られてしまって…高杉さん、びしょ濡れじゃないですか!』
私は慌てて手ぬぐいを差し出した。
『悪いな。』
そう言って、手ぬぐいを受け取ると、高杉さんが茶色の塊を取り出して拭き始める。
よく見ると、その塊は子犬だった。
『どうしたんですかその子?』
私が驚いて尋ねると、拭き終わった子犬を私に差し出しながら高杉さんが言う。
『迷い犬だ、雨に濡れてんのをほっとけなくてな…』
私が子犬を抱くと、高杉さんは自分を拭き始める。
(子犬を助けるなんて、高杉さんやっぱり本当は優しい人なんだな…)
子犬は安心したように寝息をたて始める。
高杉さんが拭き終わった手ぬぐいをぎゅっと絞ると、懐にしまう。
『洗って返す』
『そのままで大丈夫ですよ?』
私が言うと、高杉さんは私から子犬を抱き上げながら言う。
『いいんだよ。借りときゃ返す時に、また会う口実になるからな。』
高杉さんの言葉に頬が熱くなる。
高杉さんは知らん顔で子犬を撫でている。
(高杉さんてば、さらっと恥ずかしくなること言うんだから…)
そう思って、横目でチラッと高杉さんを見ると、とても優しい目で子犬を見つめている。
あまり見ない表情に、思わず見とれていると、高杉さんが空を見上げて言う。
『雨、あがったな』
その言葉に空を見上げると、雲の切れ間から太陽が出ていた。
『本当だ…良かったですね。』
そう言って、歩き出そうとした時、遠くから犬の鳴き声がして、子犬が目を覚ました。
『お前の親か?』
顔の高さまで子犬を持ち上げて高杉さんが尋ねると、子犬が元気よく鳴いた。
『そうか、じゃあもうはぐれるなよ。』
そう言って、高杉さんは子犬に口づけする。
その仕草に、私は思わず赤くなってしまう。
子犬が駆けて行くのを見送ると、高杉さんが意地悪な笑顔で私に言う。
『お前もして欲しかったのか?』
私は、その言葉に真っ赤になりながら
『違います!』
と言って置屋に向かって歩き出したのでした。