沖田さんと一緒に現代に帰ってきて、沖田さんの病気が治り私が高校を卒業してから、私達は2人での生活を始めた。
私は短大に通って、沖田さんは近くの剣道場の師範代をしている。
最初は現代の生活に戸惑っていた沖田さんも、こちらの生活に慣れて、携帯でよくメールをしてくれるし、苦手だった牛肉も食べれるようになった。
幸せな日々を送り、私も短大卒業を間近に控え、卒論に追われるある日のこと
いつものように沖田さんからメールがくる
【ただいま戻りました。今日、師範から牛肉をいただきました。松阪牛というものらしいですよ】
(すごい!松阪牛なんてなかなか食べれないもんね。今日はすき焼きにしようかな。)
松阪牛にウキウキしながら、沖田さんにメールをうつ。
【お帰りなさい。すごいですね!今日は、晩ご飯すき焼きにしますね。あっ!お肉は冷蔵庫に入れておいてくださいね。】
メールを送信すると、すぐに返信がきた。
【わかりました。○○さんも早く帰って来てくださいね。○○さんがいないと寂しいので】
沖田さんからのメールを読んで思わず赤くなる。
(もう…沖田さんにはかなわないな。さらっとこんなメール送ってくるんだから…)
卒論で寝不足気味の頭で講義を終えて、スーパーですき焼きの材料を買って沖田さんの待つ家へと急ぐ。
(ちょっと買い物に時間かかっちゃったなぁ)
時計を見るともう6時を過ぎている。しかも小雨がぱらついている。
私はスーパーの袋を握りしめて走り出した。
スーパーから家までは走って5分。たいした距離ではないのでそんなに雨には濡れなかったが、家に着く頃には私はフラフラになっていた。
(運動不足かな…)乱れた息を整えて玄関のドアを開ける。
『ただいま〜』
玄関のドアを開けると、沖田さんが優しい笑顔でリビングから顔を覗かせる。
『お帰りなさい』
そう言って玄関まで来ると、ヒョイとスーパーの袋を持ってくれる。
『ありがとう。ご飯すぐ作りますね。』
私が短大の荷物を置いて台所に行くと、炊飯器から湯気が出ている。
『沖田さん、もしかしてご飯炊いてくれたんですか?』
驚いて沖田さんを見ると、ちょっとすねたように言う。
『そんなに驚かなくても、私だってそれ位できますよ。屯所では釜で炊いていたんですから。』
『そうですよね、ごめんなさい。…その、ただ驚いたんじゃなくて、…嬉しくて…すき焼きすぐ準備しますね。』
そう言ってエプロンに手を伸ばした時に、軽い目眩がした。
(わわっ…寝不足だったのに走ったりしたからかな…)
『沖田さん、ごめんなさい。もうちょっとだけ待ってくださいね。』
私はうがいをしようと洗面所へ向かった。
そんな私を見て沖田さんが驚いた顔で真っ赤になっていることにも気づかずに…
うがいを終えて洗面所から出ると、沖田さんが心配そうな、でもちょっとはにかんだ顔で待っていた。
『○○さん、晩ご飯は私が用意しますから、ゆっくりしていて下さい。』
そう言って私の手を引きソファに座らせる。
『えっ?大丈夫ですよ?久しぶりに走ったから目眩がしただけですから…』
そう言うと、沖田さんの目が一瞬するどくなった。
『走ったんですか?』
『はい…沖田さんが待ってると思って…』
私がそう言うと、沖田さんが私の手をギュッと握って言う。
『ダメじゃないですか私なんかの為に…転んだりしたらどうするんですか!』
そう言ってじろりと私を睨む。
(確かに転んだりするかもしれないけど、沖田さん心配しすぎだよ…)
沖田さんの心配ぶりに疑問を抱きつつ、うむを言わせない雰囲気の沖田さんを前に
『ごめんなさい』
と、私は謝る。
『とにかく、食事は私が準備しますから○○さんはゆっくりしていて下さい。』
そう言うと沖田さんは台所に向かう。
『今日はお祝いですからね、師範が牛肉をくださって良かった。』
そう言って、テキパキとすき焼きの準備をする沖田さん。
(お祝い?何かお祝いすることあったかな?)
沖田さんの言葉に私は首をひねる。
考えてもお祝いすることが思いつかない。
(何だろう?私何か忘れてる?)
そうこうしてるうちに、テーブルにはすき焼きの準備が整っていく。
『さぁ出来ましたよ。』
何のお祝いかわからないままテーブルにつくと、沖田さんが改まって口をひらく。
『○○さん。その…○○さんが学業を終えてからと思っていたので、順番が違ってしまったんですが…改めて…私の妻になっていただけますか?』
突然のプロポーズに私は真っ赤になってしまう。
『○○さんはもちろん、この子も私が幸せにしますから…』
そう言って沖田さんは、椅子に腰掛けた私の横にきてしゃがみこみ、私のお腹にそっと手をあてる。
『結婚してくれますよね?』
そう言って優しく微笑む沖田さんを見て私の頭の中で、疑問の答えが出た。
『お、沖田さんちょっと待ってください。…この子って何のことですか?』
私は慌ててお腹に当てられる沖田さんの手を握る。
慌てている私を見て、沖田さんがキョトンとする。
『何って…先ほど○○さん気分が悪そうに、洗面所に行かれましたよね?』
『はい…あの…でもあれは、寝不足だったのに走ったせいで、目眩がして…ちょっと気持ち悪くて…うがいを…』
私がそう言って沖田さんを見ると、沖田さんは今まで見たことない程真っ赤な顔をしている。
『あの…沖田さん?』
私が声をかけると、ばっと立ち上がって沖田さんが私に背を向ける。
『すみません、あの…先ほどの○○さんの様子が、師範と昼食を頂いた時に見たテレビの女性とそっくりだったので…』
(お昼に見たテレビって…もしかして昼ドラ?…そういえば師範が昼ドラにはまってるって奥様が言ってたっけ…)
『あの…○○さん…さっきのは忘れてください…すみません、勝手に勘違いしてしまって…』
耳まで真っ赤にしながら沖田さんが言う。
そんな沖田さんが可愛くて、私は思わず背中に抱きついた。
『嫌です。忘れたくありません。』
私の言葉に沖田さんが驚いたように振り返る。
『だって…私すごく嬉しかっんですよ。だから忘れたくありません。』
私がにっこり笑ってそう言うと、沖田さんはちょっと困った顔をして言った。
『まったく…○○さんにはかないませんね…簡単に私を喜ばす言葉を言ってくれる…』
そう言うと私の方に向き直り、私を抱きしめる。
『じゃあ忘れないでくださいね、さっきの言葉は嘘ではありませんから。私は○○さんを幸せにしたいと思っていますから。』
耳元でささやかれた優しい言葉に今度は私が真っ赤になる番だった。
(沖田さんこそ、私を喜ばすのが上手いんだから…)
真っ赤になった私を見て沖田さんがいつもの涼しい笑顔で言う。
『さぁ、夕食をいただきましょう。もうお腹ペコペコです。』
『はい。』
私も元気良くうなづいた。
お祝いではなくなったけど、2人で仲良くすき焼きを食べる。
すき焼きをほおばる沖田さんを見て、近い将来訪れるであろう幸せな未来を思う。
(早く本当の報告ができたらいいな…)
その時を思って私もすき焼きを頬張ったのだった。