置屋の仕事にお休みをいただいたので、買い物でもしようかと町を歩いていると前から浅葱の羽織りを纏った人が歩いてくる。
お互いがほぼ同時に気づいて笑顔になる。
『沖田さん。こんにちは、見回りですか?』
私が声をかけると、沖田さんが優しく笑いながら答えてくれる。
『えぇ。でも、今日は午後から非番なので、今から屯所に戻るところです。○○さんはお買い物ですか?』
『はい。私も今日はお休みをいただいたので。でも、特に買いたい物があるわけではないので、お散歩ですね。』
私がそう言うと、沖田さんがちょっと考えてから言う、
『もしよろしければ、ご一緒してもいいですか?』
『はい!もちろんです』
思ってもみなかった申し出に嬉しくなってしまう。
『じゃあ行きましょうか』
沖田さんも嬉しそうに笑って並んで歩き出す。
歩きだしてしばらくすると、どちらともなく手をつなぐ。
沖田さんの手は温かくてほっとする。
手を引かれるまま歩いていると、小さな川に着いた。
『ここに○○さんを連れて来たいと思っていたんです。』
沖田さん嬉しそうに言う。
『?ここに…ですか?』
私は辺りを見回すけれど、特に何かがあるわけでもない。
私が不思議そうな顔をして沖田さんを見上げると、沖田さんは楽しそうに笑っている。
『ここからではわからないので、さぁ川べりまで降りましょう。』
沖田さんに手を引かれ川べりまで降りると、川面に真っ赤になった紅葉の葉が沢山浮かんで流れている。
『わぁ、紅葉の川。私、こんなの初めて見ました!素敵ですね』
私がそう言って沖田さん笑顔を向けると、沖田さんはほっとした顔をする。
『良かった…喜んでいただけて…』
そう言いながら、私の肩を抱き寄せる。
私が沖田さんの肩に頭を預けると優しく髪の毛を撫でてくれる。
『この川はね、あの山から流れてきてるんです。』
沖田さんが上流の方を指差す。
その指の先には紅葉で真っ赤になった山がある。
『本当は、あの山に一緒に行って紅葉を楽しみたかったんです…でも、それは叶わないから、何とか○○さんと紅葉を楽しめないかと思って…』
そう言って、沖田さんはちょっと淋しそうに笑う。
私はその笑顔を見て胸が苦しくなる。
『沖田さん、私は紅葉の川とっても嬉しいですよ。…あの山には、また今度…来年でも、再来年でも、ずっと先でもいいから、きっと一緒行きましょう。』
そう言って、私が小指を差し出すと、沖田さんがそっと自分の小指を絡める。
指きりをすると、沖田さんの顔にも優しい笑顔が戻る。
沖田さんはそう言うと、思いついたように川面に浮かぶ紅葉をすくい取る。
『今日の約束を忘れないように…一枚ずつ持っておきませんか?』
そう言って、一枚を私に差し出した。
『いいですね』
そう言って、笑顔で真っ赤な紅葉を受け取る。
しばらく手にした紅葉を眺めていると、沖田さんがぽつりと呟く
『小さくて、○○さんの手みたいですね。』
『いくらなんでも、ここまで小さくはないですよ?ほら』
沖田さんの言葉に笑って答えて、手のひらを広げて見せる。
『いいえ、やはり小さいですよ。』
そう言って、沖田さんは私の手に自分の手のひらを合わせる。
『ほらね、私のに比べたら、こんなに小さい…』
そう言って、合わせた手をギュッと握る。
『沖田さん…』
小さく名前を呼ぶと、沖田さんが私を引き寄せてきつく抱きしめる。
『あなたの小さな手を握る度に、あなたと離れるのが怖くなるんです。』
沖田さん声が少し震えているような気がして、私はそっと沖田さんの背中に手を回して抱きしめ返す。
『沖田さん、…いつでも私の心は沖田さんのおそばにいます…』
私が言うと、抱きしめていた腕を少し緩めて、私の顔を見つめる。
私も沖田さんをじっと見つめる。
『好きですよ。○○さん。』
そう言って、沖田さんの顔が近づいてくる。
私はそっと目を閉じて、沖田さん優しい口づけを受け止めたのだった。