ある秋の日、秋斉さんに頼まれて、新選組の近藤さんに文を届けた帰り道。
私は見回りのついでだと言う土方さんと並んで歩いていた。
『わざわざすみません』
私がそう言うと、
『見回りのついでだと言っただろ。』
土方さんがぶっきらぼうに言う。
土方さんがぶっきらぼうなのはいつものことだし、本当は優しい方だとわかってはいるけど、こうして二人で歩いていると、少し緊張してしまう。
そうして、あまり会話がないまま歩いていると、土方さんが不意に立ち止まる。
『土方さん?』
不思議に思って土方さんの視線の先を辿ると、古い神社の境内に綺麗に色づいた紅葉が見えた。
『綺麗だな…』
土方さんがポツリと呟く。
『ちょっと寄り道しましょうか?』
私が言うと、土方さんは一瞬驚いた顔を見せたけど、すぐにいつもの顔に戻って、
『仕方ねぇな』
と言って、神社に向かって歩き出した。
(素直じゃないんだから)
そう思うとクスリと笑ってしまう。
すると、少し前を歩いていた土方さんが急に振り向く。
『何か言ったか?』
私は慌てて首を横に振る。
『いいえ、何でもありません。』
そう言って、土方さんを追って歩き出した。
二人並んで鳥居をくぐると、境内には紅葉とイチョウが並んでいて、赤と黄色の見事な景色を作り出していた。
『わぁ』
思わず感嘆の声を漏らす。
『見事なもんだな』
隣を見ると、土方さんも嬉しそうに微笑んで木々を見上げている。
その横顔がとても綺麗で、私は景色ではなく土方さんに見とれてしまう。
『せっかくだから、お参りもしていくか』
土方さんがそう言って私の方に視線をうつす。
私は見とれていたことがバレないように、慌てて視線をそらした。
『そ、そうしましょうか』
そう言って歩きだそうとすると、足元でブチっと音がする。それと同時に私の体がグラリと傾く。
『きゃっ』
転ぶと思った瞬間に、力強い腕で支えられる。
『あぶねぇな』
土方さんが私をまっすぐ立たせながら言う。
急に近づいた距離にドキドキする。
『あ…ありがとうございます。』
お礼を言う声がうわずってしまう。
『鼻緒が切れたのか…』
土方さんが私の足元を見る。
『そうみたいですね…』
私が相槌をうつと、土方さんが私を抱き上げる。
『わっ、ひ、土方さん?』
突然のことに私は赤くなって慌ててしまう。
『じっとしてろ』
土方さんはそう言うと、私を抱えて境内の隅にある岩に向かって歩き出す。
岩の上に私をそっと座らせると、私の前に膝をついて鼻緒の切れた草履を手にとる。
『完全に切れちまってるな…』
そう言うと懐から手拭いを出して、端を細く裂くと鼻緒を直してくれた。
『どうだ?』
直した草履を私に履かせて、土方さんが少し心配そうに聞く。
『大丈夫です。…ありがとうございます。』
足に触れる土方さんの手にドキドキしながら答えると、土方さんが立ち上がって手を差し出した。
『?』
差し出された手の意味がわからずに戸惑っていると、土方さんが私の手を握って立ち上がらせる。
突然引っ張られた私は、よろけて土方さんの胸に飛びこむようになってしまう。
『ご、ごめんなさい…』
離れようとする私を土方さんがそのまま抱きしめる。
少し肌寒くなってきた秋の夕暮れに、土方さんの温もりが私を包む。
(土方さん、あったかいな…もう少しこうしてたいな…)
そう思って、そっと寄り添うと、土方さんがぽつりと呟く
『お前は温かいな…離したくなくなる。』
同じことを考えていた事に驚いて、顔をあげると土方さんが優しい眼差しで私を見ている。
『私も…同じことを考えていました…』
私が小さな声で言うと、土方さんは優しく笑うと私の額に軽く口づけた。
しばらく寄り添っていると、土方さんが不意に体を離す。
『帰るか』
『あ…』
急に離れた温もりが寂しくて思わず声が出てしまう。
すると土方さんが私の手をとって歩き出す。
『これ以上お前を抱いていたら、抑えられなくなっちまうからな…』
土方さんが前を向いたまま言う。
私は真っ赤になっているのがバレないように、少し後ろを歩く。
土方さんを見ると、赤くなっている。
私は、繋がれた手の温もりと同じ温もりが心に広がるのを感じて笑顔になるのだった。