私は机に向かって書き物をしている慶喜さんに、ちょっと緊張しながら声をかける
『慶喜さん、ちょっとお話しがあるんですけどよろしいですか?』
書き物をする手を止めて、慶喜さんが振り返る。
『どうしたんだい?』
優しく微笑んで、慶喜さんが私の方を向いて座りなおす。
『あの…』
緊張でなかなか言葉が出てこなくて私は俯いてしまう。
『そんなに緊張してどうしたんだい?』
慶喜さんは、立ったままうつむく私の手を引いて膝の上に横向に座らせる。
すぐ近くに慶喜さんの綺麗な顔がきて、私は恥ずかしさも加わってますます緊張してしまう。
そんな私を見て慶喜さんは、クスクス笑いながら私を抱きしめる。
『大丈夫だから、話してごらん?何があっても私が○○から離れられるわけがないんだから。』
耳元でささやきながら、慶喜さんはまるで子供をあやすように体を揺らす。
慶喜さんの優しさに、私の緊張がゆるゆるとほどけていく。
慶喜さんなら喜んでくれる、いつもの優しい笑顔を見せてくれる。
そう思って、私は思いきって口を開く
『実は…私…子供ができたみたいなんです…』
私は俯いたまま慶喜さんの言葉を待つ。
でも、いくら待っても慶喜さんの声は聞こえてこない。
気がつけば、あやすように揺れていた体も止まっている。
私が恐る恐る顔を上げて慶喜さんの方を向くと、慶喜さんは驚いた顔をして私を見つめている。
『あの…慶喜さん?』
私が声をかけると慶喜さんは、ハッとして私を膝から下ろして視線をそらす。
急に離れて行く慶喜さんの温もり、それと入れかわるように私の心の中に不安が広がっていく。
『困ったな…』
焦りの浮かぶ表情で、聞きとれない位小さな声で慶喜さんがつぶやく。
『…喜んではくださらないんですか?』
慶喜さんは私の声が聞こえていない様子で、立ち上がると
『少し歩いてくる』
と、言い残し部屋を出て行っしまった。
慶喜さんが出て行って、襖が閉まったところで目が覚めた。
『夢か…』
そうつぶやいて体を起こすと、夢と同じように慶喜さんが机に向かっている。
『慶喜さん…』
私が小さな声で呼ぶと、慶喜さんが振り返る。
『あぁ、ごめん。起こしてしまったかな?急ぎで文をかかなくてはいけなくてね。』
いつものように優しい慶喜さんの声を聞いて涙が出そうなった私は、黙ったまま俯いてふるふると首を横に振る。
『怖い夢でもみた?』
慶喜さんはそう言って私を抱き寄せると、夢と同じように私を膝の上に座らせる。
その仕草に、夢で感じた不安が私の中で広がっていく。
『そんなに不安な顔をして…何が○○にそんな顔をさしているのか話してごらん?』
そう言って、私を優しく抱きしめる。
『あの…慶喜さん…』
不安で声が震えてしまう。
『なんだい?』
私は慶喜さんの顔を見ないようにして言葉を続けた。
『もし…もしもの話なんですけど…、私が、…子を授かったら…慶喜さんは…困りますか?』
(答えを聞くのが怖い…)
ぎゅっと目をつぶって慶喜さんの答えを待つ。
『それは…こまるなぁ…』
私を膝に抱いたまま、慶喜さんがつぶやいた。
その答えに、こらえていた涙がこぼれ落ちる。
『そ…うですよね…』
やっとの思いでそう言うと、私は慶喜さんの腕から逃れようとするけれど、慶喜さんが抱きしめる腕に力をこめて離してくれない。
『ダメだよ○○。話は最後まできかないと』
慶喜さんは、そう言って今度は私を向かい合うように膝に抱きなおす。
『○○、顔をあげて』
泣き顔を見られたくなくて、私は俯いて首を横に振る。
すると、慶喜さんの温かい手が頬に添えられてこぼれ落ちた涙を拭ってくれる。
涙を拭った手が、そのまま顎に添えられて顔を上げられる。
顔をあげると、慶喜さんはいつものように優しく笑っている。
『○○。』
優しい声で私の名前を呼んで、私の耳に口を寄せる。
『私はまだまだ○○を独り占めしたいんだ。…他の誰にも触れさせたくない。…たとえ私と○○の子でも、私はきっとやきもちを焼いてしまうからね…』
耳元でそうささやいて、私の首筋に顔をうずめる。
『…慶喜さん…子供みたいですよ?』
理由を聞いて力が抜けた私がそう言うと、慶喜さんが顔を上げる。
『○○のことになると、子供の様にわがままになってしまうみたいだね。』
そう言って、ちょっと恥ずかしそうに笑う慶喜さん。
その様子があまりにも可愛くて、私がクスクス笑っていると、慶喜さんが真剣な顔で言う
『こんな私は嫌いかい?』
『嫌いなはずありません…』
言い終わる前に慶喜さんの口づけで遮られる。
甘く長い口づけに私がうっとりしていると、イタズラな笑みを浮かべた慶喜さんが耳元で囁く
『○○が子を望むなら、今から期待に応えるのも悪くないね。』
その言葉に真っ赤になる私を見て、慶喜さんがまた口づけをくれる。
何度も繰り返される口づけの甘さに酔いしれながら、夜は更けていくのでした。