幕末から戻ってきてから訪れた秋。
今日は、体育大会の日。お天気は快晴。見事な秋晴れ。
でも私の心は・・・・

君の面影・・・

楽しいはずの体育大会。でも私はどうしても素直に楽しめない。
3日間ある体育大会。いままでの私なら、こうした大きいイベントが好きだった。
だけど今は・・・・・

今日は初日で、一日応援の日。皆でわいわい応援したいけど・・・
でも・・・・正直学校には行きたくなかった。
幕末から戻ってきた私達。
私には記憶があるけれど、翔太くんは憶えていなかった。
翔太くんの面影は日に日に大人びて、幕末の時の彼に重なる。
瞳の強さや仕草、声のトーンや笑顔・・・すべて見てきた。
でも、あのときのような熱を帯びた瞳はない・・・・・
そんな翔太くんを傍で見なければならない。
刹那くて、苦しくて、助け出してほしい・・・・


午前のプログラム、翔太くんはバスケットの試合が入ってる。
クラスメイトに無理矢理引っ張られて、体育館の応援場所に連れてこられた。
「あ!ほらほら!!結城君あそこだよ!!やっぱかっこいいよねぇ」
「・・・・そだね」
「どしたの?具合悪い?」
友達の心配に軽く頭を振る。
「ううん・・・大丈夫だよ」
「そう?・・あ!!ほら試合が始まるって!!キャー結城君がんばってーー!」
友達の声に翔太くんがコートから見上げた。
視線が交差した・・・その眼差しにドキリとする。けれど私はすぐにふいっと逸らしてしまった。
翔太くんが怪訝な顔をしたのがわかった・・・


試合が始まって、エースの彼は本当にかっこよくて、彼の全てに目を奪われる。
相手チームを挑発するような笑顔、ゴールを狙う強い眼差し。
足の速さは「韋駄天のようだ」といっていた龍馬さんの声が聞こえるように、俊足で・・・
流れる汗も、真剣な顔も全て・・・知っている・・・
だけど・・・
違う。
知っているけど、知らない、彼・・・・
私はそんな翔太くんを見ていることが出来なくて、友達にわからないように体育館を去る。
溢れそうになる涙をこらえて・・・・


静かな教室に戻ってきて、外を眺める。 
校庭でも競技が行われていて賑やかだった。
だからこそ、人目が無いところへと考え、教室に戻ってきた。
誰もいない教室。
皆がいないことをいいことに、私は翔太くんの机に座った。
そして・・・机にうつ伏せ、そっと撫でる。
彼の髪に、頬に触れるように・・・
涙が零れた。
「っ・・・・・・・・・・・翔太くん・・・刹那いよぅ・・誰か・・助けてぇ・・・・」
小さく嗚咽した。



チャイムの音にはっと気がついた。
ここ数ヶ月、まともな睡眠が取れていなかったせいと泣き疲れたせいもあって、眠ってしまったらしい。
その時、ふっと気がついた。
懐かしい柑橘系の香り・・・・・・・
「・・・あれ・・・この香り・・・っ!!」
身体を起こし、自分に掛けられていた学ランの名前を確認する。
「・・・・・・・・・・・翔太くんのだ・・・・どうして?・・・・」
周りを見渡しても誰もいない。
掛けられた学ランをキュッと握る。
「・・・・・・・・・・・・っ・・・ずるいよ・・・これじゃ・・・」
あの強い腕に抱きしめられてるみたいで・・・
幕末の時のような熱を帯びた瞳で見つめられて・・・
思い出すだけでズキズキと胸が痛い。
あの眼差しが恋しい・・・・


溢れる涙が止まらなくて、愛しさだけが募るばかりで。
帰りたかったはずの現代なのに、今は幕末に帰りたい・・・・と思ってしまう。
校庭を見つめる。景色は涙で霞んだ。
カタンと音がしてはっと振り向くと、教室の入り口に翔太くんが立っていた。
「翔太く・・」
「・・・・・○○・・・起きたのか?」
「あ・・うん・・・あ、えっと・・・・学ラン掛けてくれたの?」
「・・・・ああ。」
「・・・・ありがとう。」
翔太くんが私の傍まで歩いてくる。そっと手を伸ばした。
ビクリと身体が震える。
「っ・・・な、何?」
身構えたのがわかったのか、不機嫌な顔をした翔太くんは、「いや、いい」と一言いうと、教室から出て行こうとした。
入り口でふっと振り返り、
「オレ・・・何かしたか?」
「っ!!!」
その表情は、彼が自分を責めているときの瞳。
何も言えず、真っ直ぐに私を見つめるその視線から逃げるように、背を向けた。
「・・・・・」
「どうして、何も言ってくれないんだよ」
「・・・・い・・・って」
私は彼に聞こえないように呟く。
「・・・・え?何?」
これ以上は声が出なかった。きっと話をしたら泣いてしまうから・・・
私は頭を振るしか出来なかった・・・・・・
「○○」
翔太くんの優しい声に、我慢している涙腺が壊れそうになる。
「おい、○○!こっち向けって」
フルフルと頭を振る。
そんな私の態度に、翔太くんの声に不機嫌の色が入る。
「頼むから・・・・一人で泣かないでくれ・・・どうしていいかオレわかんねーよ!」
「・・・・・・おねが・・ほっといて・・・」
そう言うのが精一杯だった。
涙で声が震え、どうしようも出来ない事に心がついていかない。
翔太くんは苛立ちを見せて、何も言わずに教室から出て行った。

その日私は早退した。
結局その日の夜から高い熱を出してしまい、体育大会が終わって休み明けになるまで学校を休んだ。
ますます翔太くんとの間に溝が出来てしまった。
彼が幕末でのことを思い出さない限り、私にはどうすることも出来ない。
出来ることは、彼が思い出すように祈ることしかなかった・・・