ある春の日の午後、土方さんと散歩に出かけた時のこと
『土方さん見てください。桜がとってもキレイですよ』
私は土方さんと手をつないで桜並木の川沿いの道を歩いていた。
『あぁ、そうだな。』
相変わらず土方さんの言葉はそっけないけれど、つないだ手から伝わる温かさが私を安心させてくれる。
『せっかくだから、この辺りで少し休みませんか?』
『なんだ○○、もう疲れたのか?』
土方さんがちょっと意地悪く笑いながら言う。
『もう!違いますよ。せっかく桜も綺麗だしゆっくり楽しみたいじゃないですか。』
私は少し頬をふくらまして土方さんの腕をたたく。
『冗談だ。そうふくれるな。』
土方さんは優しく微笑むと私の手を引いて土手に腰を下ろした。
河原では近所の子供達が釣りをして遊んでいる。
『子供達楽しそうですね。』
『あぁ。』
それだけ言うと土方さんは目をつぶって横になる。
(土方さん子供あんまり好きじゃないのかな…)
(本当は今日土方さんに伝えたいことがあったけど、なんかちょっと言いにくいなぁ)
そう思って、横になっている土方さんの顔を盗み見する。
『お姉ちゃ〜ん』
その時河原で釣りをしていた子供達が桶を持って土手をかけて来る。
その声で土方さんが起き上がる。
土方さんを見た子供達がちょっと遠回りして私の元に来る。
その様子をみてちょっと苦笑いしてしまう。
(土方さん子供達から見たらちょっと怖いのかな…)
土方さんは一度起き上がったが、子供達を見てまた横になって目を閉じる
『お姉ちゃん見て〜お魚いっぱいでしょ』
嬉しそうに私に桶の中を見せてくれる。
『わぁ!すごいね〜沢山釣れたね』
私が子供達に笑顔を向けと子供達はちょっと得意気な顔をして言う。
『この魚、お母さんに焼いてもらうんだ。すっごく美味しいんだよ』
『そっかぁ。じゃあ今日はご馳走だね。』
『うん。いっぱいとれたからお姉ちゃんにも分けてあげる』
『いいの?ありがとう。…土方さん、子供達がお魚をくれましたよ。今日の晩御飯でいただきましょうね。』
私が声をかけると土方さんがゆっくりと体を起こす。
起き上がった土方さんを見て、一瞬子供達の顔に緊張がうかぶ。
『ありがとうな。』
土方さんが微笑んで子供達にお礼を言うと、子供達もちょっとぎこちなく笑顔を返す。
『○○、そろそろ帰るか。』
『はい。』
子供達にもう一度お礼を言って私達は家路についた。
晩御飯の支度をして食卓に並べる、献立の中にはもちろん子供達からもらった魚がある。
『土方さん、お待たせしました。ご飯の用意できましたよ。』
縁側で庭を眺めて発句帳を広げた土方さんに声をかける。
『いただきます』
2人揃ってご飯を食べる。
『子供達にもらったお魚美味しいですね。』
『あぁ』
いつものように短い返事。私はご飯を食べる箸をとめて土方さんを見つめる。
『どうした○○?飯が冷めちまうぞ』
私は意を決して土方さんに問いかけた
『土方さんは子供がお嫌いですか?』
突然の問いかけに土方さんの箸も一瞬止まるが、また食事を進めながら土方さんが小さな声で答える。
『俺が子供を嫌いなんじゃねぇ。…子供が俺を嫌うんだ。』
そう言って、黙々とご飯を食べ続ける土方さんを見て、私はほっとして食事を再開する。
(良かった。土方さん子供が嫌いってわけじゃないんだ…ってゆうより、怖がられてること気にしてる?)
黙々とご飯を食べる土方さんが可愛く見えてきた。
『土方さん、大丈夫ですよ。』
『大丈夫って何がだ?』
土方さんが不思議そうな顔をしながら聞く。
『この子は絶対に土方さんのこと大好きですから。』
私は自分のお腹をなでながら土方さんに微笑んだ。
『ぶほっ…ごほっごほっ…』
土方さんが激しく咳き込む。
『わっ!土方さん大丈夫ですか?』
私は慌てて土方さんに手拭いを渡し背中をさする。
『ごほっ……は〜、死ぬかと思った。』
土方さんはお茶を一口飲んで息をつくと私をじろりと睨む。
『○○、お前―』
いつもより低い声に思わずうつむいてしまう。
『ごめんなさい。急に子供とか言っても土方さん、困りますよね。』
私はうつむいたまま、慌てて土方さんに謝る。
『馬鹿やろう』
そう言って土方さんが私を抱きしめる。
『馬鹿やろう。なんでそんな大事なこと、もっと早く言わねぇんだ。』
耳元で聞こえる優しい声に私はゆっくりと土方さんの顔を見上げる。
『…ごめんなさい。土方さん子供がお嫌いなのかと思って…』
私がそうつぶやくと、土方さんは私の視線から顔を背けて言う。
『さっきも言っただろ…子供が俺を嫌うんだと…』
『土方さん…』
『それに…俺とお前の子を俺が嫌うわけ…ない』
その言葉を聞いて私は嬉しくなって、今度は自分から土方さんの首に腕を回す。
土方さんは私の頭をポンポンと撫でてくれる。
『○○、まだ飯の途中だろ。子供達がくれた魚が冷めちまうぞ』
『そ、そうですね。嬉しくってつい…』
私は土方さんから慌てて体を離した。
食事をすませお茶を入れて戻ると、土方さんが縁側で庭を眺めながら発句帳に何か書き留めている。
『いい句が浮かびましたか?』
お茶を置いて土方さんの横に腰かけると
土方さんは慌てて発句帳を閉じる。
『いや、まだまだだな…○○、夜はまだ冷える、何かかけるものを持ってくる…』
そう言って、土方さんは部屋に上着を取りに入る。
(?なんで、あんなに慌てて隠したんだろう?)
私はこっそり脇に置かれた発句帳に手をのばす。
そっと開いてみるとそこには、名前が沢山書かれている。
(土方さん…子供の名前考えてくれてたんだ…)
その時土方さんが戻ってくる音がして、私は慌てて発句帳を戻してにやけてしまう頬を抑えて平静を装った。
『何にやついてんだ?』
土方さんが私の肩に上着をかけてくれる。
『なんでもありませんよ。』
私がそう言うと、土方さんは私の後ろに腰掛け後ろから私を抱きしめる。
優しい手つきで私のお腹をなでながら土方さんが言う。
『○○、ありがとう。俺にこんな幸せを教えてくれて…』
『私こそ…土方さんから沢山の幸せをいただいてますよ』
私はお腹をなでる土方さんの手に手を重ね、これから訪れる幸せを思いながら、土方さんの温もりにいつまでも身を委ねていたのだった。