雨宿り 沖田さん視点
京の街の見廻り、そろそろ交代の時間だと知らせを聞いた。
空はどんよりと曇りで、いつ降ってきてもおかしくない。
「・・・・雨・・・降りそうですねぇ・・・・」
共に見廻りをしている隊士にふっとこぼす。
「沖田さん、屯所に戻りましょうよ。」
「・・・・そうですね。」
そんな会話をしてふっと視線を向けると、島原の大門の前でウロウロとしている藍屋の主人を見つけた。
「・・・??・・・・あれは藍屋さん?」
怪訝に思い、隊士に先に屯所に戻るように言付けると、藍屋の元へ向かった。
「こんにちは、藍屋さん。何かあったんですか?」
「沖田はん!それが・・・」
真っ青な顔をして言いよどむ藍屋に、胸騒ぎを感じる。
「どうされたんです?」
「・・・・実は、○○はんに使いを頼もうしたんやけど、まだ戻らんのどす。」
「えっ!」
「朝に出て、こないな時間になっとるさかいに・・・・・」
「・・・・・・・・わかりました。私が探しに行きましょう。」
「ほんまですか!うちは、ここを離れるわけにはあかんので、助かります!よろしゅうおたの申します。」
「はい!」
踵を返し、内心の焦りを隠して歩き出そうとした時、
「あ、沖田はん・・・傘持っていったほうが・・・」
藍屋さんがそう言って傘を持たせてくれた。
軽く会釈をして、足を踏みだした時、ぽつりと振り出した。
(・・・・早く探さないと・・・・)
不安と焦りが交ざる。
足並みも自然と早くなった・・・・・
陽もすっかり落ちて、視界も悪い。
シトシトと降る雨は、思っていた以上に冷たい。
「○○さーん!○○さーん!!」
雨宿り出来そうなところを確認しながら山道を歩く。
「・・・どこにいるんだ・・・」
焦りも強くなる。
声も一層大きくなる・・・・
提灯を持つ手が冷たい・・・・・
暫く歩き、ふっと見ると、人気のない寺が目に入った。
「○○さーん!どこですか!○○さーん!」
近寄ると中から
「沖田さん!!」
「!!!!!」
聞き間違えるはずがない。
愛しい彼女の声・・・・・
階段を駆け上がり、勢いよくバタン!!と扉を開いた。
「○○さん!!」
ほっとため息が漏れる。
「沖田さん・・・・」
「藍屋さんに○○さんが使いから戻らないと聞いて…心配になって捜していたんです」
持っていた傘を畳み、中へ入った。
暗かった本堂が提灯の明かりでうっすらと明るくなる。
彼女の表情が少し和らぎ、安堵したのが気配でわかった。
「怪我はありませんか?」
確認するように尋ねると、「はい・・・・・」と返事が返ってくる。
「それからよかった・・・・夜も更けるし何者かに襲われたりしてないかと、気が気じゃなかった」
彼女の無事を自分自身の腕の中で確認したかった。
迷わず彼女を抱き寄せる。
「沖田さ・・・・・」
雨にぬれ、かすかに香る彼女の香り。
腕の中にある彼女の温もりにホッとした。
しかし、彼女の着物は思っていたよりも濡れていて、しばらく雨の中を歩き回ったんだと気がついた。
「びしょ濡れじゃないですか!?」
自分がついていれば・・・そんな後悔の念も出てくる。
体を離し、着物をみつめる。
「このままでは風邪を引いてしまいます、着物を脱いだほうがいいですよ」
「ぬ、脱ぐって・・・他に着るものがないですよ・・・」
ほんのり頬を染め、きゅっと着物を握る彼女の指に力がはいった。
けれど本当にこのままにしていたら風邪をひいてしまう・・・
そう思い、自分の羽織に手をかけ、
「私のを着たらいい」
羽織と肌襦袢を脱ぎ彼女に渡した。
「あ、ありがとうございます」
彼女は羽織と肌襦袢を受け取ったが、着替える様子がない。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
どうしたんだろう、と思ったが彼女の表情を見て自分がここにいるから着替えられないのだと気付いた。
あわててくるりと向きを変え、
「私は外に出ていますね」
一言告げ、扉を閉めた・・・・・
扉を閉めたはずなのに・・・
雨も降っているのに・・・・
自分の耳に聞こえてくるのは、彼女が着替える衣擦れの音。
しゅるりと音が間近で聞こえる。
彼女が自分の着物に着替える・・・
そう思うだけで鼓動が跳ね上がる。
早鐘を打つ心臓に心を乱されぬようにと、深呼吸をする。
暫くして、中から彼女の声が聞こえた。
「沖田さん、もういいですよ・・・」
彼女の声に静まったはずの鼓動がまた早鐘を打ち始めた。
そっと扉を開き、中にいる彼女を確認する。
薄暗い中に自分の羽織を着た彼女を見、思わずうっすらと微笑が出る。
彼女の色が自分に染まった気がした・・・・
「大丈夫ですか?」
彼女に近づき、そっと声をかける。
「はい・・・全然違いますね・・・本当に寒かったから・・・」
彼女が手を擦り合わせる。
「本当だ・・・・」
摺り合せた手を取り、暖めるように包む。
冷え切った体。そっと肩に触れる。
普段着ている着物より薄着で、羽織っているのは自分の着物・・・・
細い彼女の肩にドキリとする。
「身体も冷えて・・・」
指で彼女の線をなぞる様に、肩から手をずらし、彼女を抱きしめる。
雨に濡れ、かすかに香る彼女の香り。
視界に入ってきたのは乱れた髪の隙間から見える、白く細い項・・・
冷え切った彼女の身体を包む。
「こうしたら少しは違いますか?」
背中に置いていた手を腰へ回した。
「あ、温かいです・・・」
思わず腕に力が入った。
彼女が発した言葉の吐息が首筋にかかる。
・・・・・・・・・限界・・・・・・
ゆっくりと彼女を床へ倒す。
「お、沖田さ・・・ん・・・つ!?」
彼女の唇をふさぐ。
重ねるだけの口づけから・・・そして少し深く・・・
彼女の頬を愛で、首筋を辿る・・・
鼻孔をくすぐる彼女の香りに眩暈がする。
このまま・・・
その時彼女の身体が震えた。
はっとして起き上がった。
「すみません・・・」
「・・・・・・・・・」
彼女は赤い顔で視線を落とす。
「急にあなたに触れたくなって・・・こんなところで、本当に申し訳ありません・・・」
すっと熱が冷める。
離れようとした時、彼女が裾を掴んだ。
「あ・・・私、沖田さんに触れられるの嫌じゃないです・・・ちょっと驚いただけで・・・」
彼女の言葉に目を丸くした。
嫌ではない・・・と。
「本当に・・・・?」
確認するようにそっと手を伸ばし、彼女の頬に触れる。
こくんと頷く彼女。
微かに染まる頬や、耳、首筋におさまったはずの熱が戻り、欲情する。
ふっと微笑むと彼女もはにかんだ。
そっと顔を寄せ、口付ける。
甘さを含んだ彼女の色に、自分を抑えることを手放した・・・・・